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日本と違う韓国のビックリ 9・10

2016’04.24・Sun

日本と違う韓国のビックリ 9・10

祭祀は一族の結束を固める

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祭祀の後は知人の消息で盛り上がる

3月29日は父の命日だった。

日本では、亡くなった人の法要は、三周忌を過ぎると七回忌、十三回忌となり、何年もの空きが出る。

しかし、韓国ではたとえ何十年が経とうとも、かならず毎年行なわれる。

昔は命日当日の午前零時から祭祀(チェサ)を行なったらしい。
しかし、現代社会では真夜中に親族が集まるのは難しいので、命日前日の夜に行なわれるのが普通だ。

よって、父の祭祀は3月28日の夜に行なわれた。
午前中から忙しいのが親族の女性たちだ。
早くから集まって、祭壇に備えるご馳走を作るのである。
私の妻も祭祀の日にはかならず仕事を休まなければならない。

男は楽だ。
仕事を終えてから夜に集まり、祭祀が始まるまで酒を飲んで待っていればいい。
午前中から料理作りに忙しい女性とは労力にかなりの違いがある。

祭祀は30分もかからずに終わる。
亡き人が地上に戻ってきたと想定して、たくさんのご馳走と酒を召し上がっていただく儀式を順番に行なっていく。
そうやって祭祀が終わると、今度は先祖に差し上げた料理を列席者みんなで堪能するのである。

この場が賑やかになる。
我が一族では男女が別々の席で会食をするが、男たちは大いに酒を飲みながら、政治・経済問題からスポーツの話までとりとめなくしゃべり続ける。

特に、「誰が金を儲けた」「誰が借金で逃げた」といった話は定番で、祭祀の酒の場は知人の消息で盛り上がる。

私はいつも長っ尻で、目の前の料理を片づけられても、構わずに酒を飲んでいる。
そして、家に帰ると妻にお叱りを受けるのである。

先祖の祭祀があまりに多い

数年前に済州島(チェジュド)で祖父の祭祀に出たことがある。

日本以上に盛大にやっているのかと思ったら、意外と質素だった。
集まる親族も少なかった。
「なるほど」と納得がいった。

韓国では1970年代から当時の朴正熙(パク・チョンヒ)政権の肝入りで、冠婚葬祭の簡素化が推進されてきた。

結婚式にしろ葬式にしろ、借金をしてまで大げさに行なうことが多かった韓国。
それがいかに家計を苦しめる原因になっていたか。
特に、先祖を供養する祭祀の数は非常に多く、しかも身分不相応なくらいに費用をかけすぎる家が多かった。
その結果、「農村の近代化をはかるためにも、冠婚葬祭の簡素化が必須」というのが1970年代以降のお題目になった。

しかし、在日コリアンの家庭にまで、その声は届かなかった。
むしろ異国にいる人たちのほうが、本国の伝統をしっかり守ろうとする傾向が強い。
我が一族も、冠婚葬祭の簡略化などハナから思っていない。
父に教えられた通りに、今も先祖の祭祀を続けているのである。

それにしても、「孝」こそ最高の徳目と考える儒教思想が深く根づいている韓国では、祭祀の数があまりに多すぎる。
私は父から「本来なら五代前までさかのぼって先祖の祭祀をしなければならない」と教わったことがある。

そんなことを数百年にわたって行なってきたと聞くと、「子孫は先祖の墓を守り、数多い祭祀を行なうために存在するのでは?」と思っても不思議はない。

ただ、祭祀は面倒なだけではない。
親族がひんぱんに集まる機会があるので、そこで一族の結束を実感できるのだ。
韓国が未だ強烈な家族主義の国であるのは、あまりに多い祭祀が大いに関係しているに違いない。



女子プロゴルフが強い理由

日本から見て、驚くことが多い韓国のスポーツ界。
女子のゴルフ選手たちの強さにもビックリさせられる。
今や世界最強のレベル。
その最大の功労者が朴(パク)セリだ。
彼女がいたから、韓国の女子プロゴルフ界はここまで強くなれたのだ。
その朴セリが今年かぎりの引退を発表した。
惜しまれながらも、彼女はフェアウェイを去ることになる。

韓国のジャンヌ・ダルク

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「韓国のジャンヌ・ダルク」と言われた朴セリ(1998年当時)

1998年に朴セリは世界の女子ゴルフ界のメジャー大会に2勝した。
それは、特筆すべき快挙だった。

「彼女は偶然のシンデレラじゃない。国が困難なときに現れたジャンヌ・ダルクだ」

当時、朴セリの2冠制覇に歴史の必然性を感じるという声を何度も聞いた。
その頃の韓国は未曾有の経済危機で、国の経済が破綻寸前に追い込まれていた。
そんな中で、スポーツを通して朴セリは国民を奮い立たせるという重要な役割を演じた。

朴セリが優勝する度に韓国の主要新聞は「私たちの娘が世界を制した」という見出しを連発した。
「私たちの」という言葉の中に誇らしげな気持ちが垣間見えた。
過剰なまでに自尊心が強い韓国の人たちにとって、経済危機で自信を失いかけたときに、再び立ち上がる勇気を与えてくれた朴セリは救国の孝行娘だった。
彼女が「韓国のジャンヌ・ダルク」に例えられたのも、十分な根拠があるのだ。

勝ち方もオーラを感じさせた。
1998年5月の全米女子プロでは、初日から最後まで1位を誰にも譲らず、底知れぬ強さで史上最年少優勝(20歳)を達成した。
さらに、2冠目はドラマ仕立てだった。
1998年7月の全米女子オープンで朴セリは、壮絶なプレーオフの末に宿敵を下してメジャー2勝目をあげた。

途中、靴と靴下を脱いで川に入り、水中のボールを打って窮地を脱するというドキドキの場面もあった。
後にこのシーンは、韓国政府が大々的に行なった「第二の建国」キャンペーンの主要映像として使われ、テレビで繰り返し放映された。
あたかも、韓国の将来を委ねる若者の代表が朴セリであるかのように。

このスーパースターの誕生秘話も「ビックリ」の連続だった。

地獄の特訓を乗り越えた

事業に失敗した父親によって、朴セリは最初から富と名声を得る手段として小学校5年からゴルフを始めさせられた。

「毎朝5時に起きて、マンションの15階の階段をダッシュで5回昇り降りしろ。しかも、下りは後ろ向きに降りるんだ。風邪を引いても休むな」

10代前半の少女に父親が命じたトレーニングはあまりに苛酷だった。

だが、「娘がつぶれるか、自分が破産するか」という断崖絶壁に追い込まれていた父親は、親の情をすべて捨て去って娘を鍛えた。

さらに、父親は地元のゴルフ場に娘の素質を売り込んで、無料で練習できる特権をつかむと、1日1000球の打ち込みを朴セリに課した。
真冬に、クラブを持つ娘の手のひらが血でにじもうとも、見て見ぬふりをした。

父親は、夜の墓場に朴セリを置き去りにしたこともある。

精神力を鍛えるためだった。

韓国は土葬の国である。
墓地も広い敷地が必要なため、ほとんどが山の中腹にある。
そんな人里離れた暗闇の中で置き去りにされたら、大人でも恐怖で顔が引きつる。

我が子を谷底に落とすどころか、さらにその谷底に岩を蹴落とすような仕打ちを父親は繰り返した。

驚くべきは女性の精神力

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長時間にわたる苛酷な練習と精神強化策が韓国の女子ゴルフ選手の強さを作り上げた

「借金を踏み倒して逃げるような奴が、今度は娘をくいものにしている」

周囲の人たちは父親を露骨に非難した。
だが、父親思いの娘は、一つも泣き言を言わなかった。

「パパが他の人に無視されるのが絶対にイヤ。私が有名になれば、誰もパパを笑ったりしない」

儒教社会の韓国では「男尊女卑」の風潮が色濃く残っているが、女たちは日陰にいながらでも常に一家の真の支えであり続けた。
秋霜烈日が続いた20世紀の韓国がその苦難に耐えてこられたのも、辛抱強く逞しい女性の働きがあったからこそだ。
その芯の強さを朴セリも見事に受け継いでいた。

父親も鬼だが、韓国ゴルフ協会も恐ろしい。
10代なかばで国家代表候補になった朴セリは、年間200日間の強化練習で鍛えられた。
極めつけは軍事訓練だ。
軍人用の精神強化プログラムを繰り返し受けさせられ、緊張した場面でも動じない精神を作り上げた。

こんな強化訓練は、日本では考えられない。
鍛えるときに容赦ないのが韓国流と言うべきか。
その凄まじさには本当に驚かされる。

朴セリは成功し、彼女のようになりたいと願う娘たちがこぞってゴルフを始めた。
もちろん、朴セリのように苛酷な練習を続けた。
真似のできない練習量が、今の韓国女子選手の強さを築いたと言える。

(文=康 熙奉〔カン ヒボン〕)


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