ペ・ヨンジュン 過去への旅路 13・14
2016’06.17・Fri
ペ・ヨンジュン 過去への旅路 13・14
第13回 映画界への進出を決意
『冬のソナタ』が最終回の放送を終えたとき、すでにペ・ヨンジュンは韓国芸能界でも別格の俳優として位置づけられていた。
それ以前の彼は、確かにトップ俳優の一人ではあったが、突出した存在ではなかった。
けれど、『冬のソナタ』の大成功はペ・ヨンジュンを「絶対無二」の域に押し上げた。
少なくとも、テレビドラマの世界で彼と並ぶ俳優はいなかった。

斬新なリメーク作品
必然的に、ペ・ヨンジュンの視線は映画界を見据えていた。
彼は過去に何度も映画界に進出する機会がありながら、無理に一歩を踏み出さなかった。
「テレビドラマを通してもっと演技力を磨いてから映画に出たい」と、思慮深い道を選んでいたからだ。
けれど、もう機は熟していた。
慎重すぎるペ・ヨンジュンも、一転して映画主演に意欲を見せ始めていた。
そんな彼が特に興味を示したのが、イ・ジェヨン監督の新作だった。
その映画の噂を聞いたのは、『冬のソナタ』の終盤を撮影中だった2002年3月のことだった。
親しい人たちと親睦会を開いているときにペ・ヨンジュンは、欧米で何度も映画化されているフランスの小説『危険な関係』を朝鮮王朝時代に置き換えた映画の企画が進行しているという話を聞いた。
まず、その発想に驚いた。
斬新で誰も思いつかないようなリメークになるとペ・ヨンジュンは直感した。
興行的に大丈夫?
それまで、出演要請を受けて100本近くの映画シナリオを読んできたが、イ・ジェヨン監督の新作ほど心が動くものはなかった。
早速、その映画のシナリオを取り寄せて読んでみた。
そこには、自分がそれまでに演じてきた役とまったく違うキャラクターの主人公がいた。
軽薄で女たらしで嘘つきで……。
自分のイメージを一気に崩すような危ない役なのだが、それゆえ挑んでみる意義があると思えた。
こういうときのペ・ヨンジュンは、優等生的な印象とはガラリと変わる。
誰もが驚くほど大胆だった。
けれど、周囲の意見は否定的だった。
ペ・ヨンジュンが意欲を見せれば見せるほど、反対意見も強くなった。
それは、興行面での心配が大きかったからだ。
それまでの韓国では、映画の時代劇は当たらないと見なされていた。
テレビの時代劇は高い視聴率を獲得できるのに、映画の場合はまるで違った。
実際、興行で成功した映画の時代劇は皆無だった。
しかも、イ・ジェヨン監督は、作品性に凝るあまり「客を呼べない監督」という見方をされていた。
周囲にしてみれば、ペ・ヨンジュンの記念すべき映画主演第1作目が興行的に不入りになることを極度に心配したのである。
チェ・ジウと熱愛か?

イ・ジェヨン監督の側も、ペ・ヨンジュンをすんなりと受け入れるわけにはいかなかった。
なにしろ、監督自身がそれまでにペ・ヨンジュンの作品を一度も見たことがなかったのだ。
ペ・ヨンジュンが一体、どんな演技をするのか。
それすら、イ・ジェヨン監督は知らなかった。
もっとも、もしイ・ジェヨン監督がペ・ヨンジュンのことをよく知っていたら、「主役のイメージに合わない」と言っていたかもしれない。
常識的には、ペ・ヨンジュンが軽薄で退廃的な両班(ヤンバン/朝鮮王朝時代の貴族)の役にふさわしい、とは誰も思わないだろう。
かくして、ペ・ヨンジュンの映画初主演作はなかなか決まらない状況だった。
また、私生活には未だ『冬のソナタ』の余波が及んでいた。
芸能マスコミを大いに賑わせていたのが、チェ・ジウとの熱愛説である。
発端は、『冬のソナタ』の放送終了から1カ月後、ペ・ヨンジュンとチェ・ジウがオーストラリアに行ったことだった。
韓国で非常に有名なデザイナー、アンドレ・キムのファッション・ショーにモデル役として参加するために出掛けたのだが、現地で2人が親しく付き合っていたという証言が次々と出てきた。
過熱する報道
「シドニーで、ペ・ヨンジュンとチェ・ジウが肩を組んでキスをしていた」
「肩を組んでいたが、キスまではしていなかった」
「シドニーのルネッサンスホテルのエレベーターから、2人が手をつなぎながら出てきたところを見た」
オーストラリアを旅行中の韓国人が、インタネーット上に様々な目撃談を載せ、それが韓国では大きな話題となった。
「イルガン・スポーツ」も2002年4月23日付けで「ペ・ヨンジュンとチェ・ジウ、シドニーで熱い密会」という大見出しの記事を載せた。
「4月22日に開かれたアンドレ・キムのファッション・ショーに出席するためにシドニーに滞在しているペ・ヨンジュンとチェ・ジウのカップルは、目撃者の証言の他にも、熱愛説を裏付けるような行動を見せていた。ショーの関係者と取材陣は4月20日に現地に向かったが、ペ・ヨンジュンとチェ・ジウはその前の19日に2人一緒に出国している。また、ショーが開かれた22日までの3日間、2人は主催者が開いたパーティーでも並んで着席していたし、その他にも、ショッピングや食事を2人で楽しんでいた」
報道は過熱するばかりだったが、根拠がないわけではなかった。
『冬のソナタ』の撮影スタッフは「ファインダーを覗いたとき、2人が好意を持ち合っているのを感じた」と語っていたし、ペ・ヨンジュンも自分のホームページで「チェ・ジウのことが気になる」と発言していた。
第14回 映画『スキャンダル』に主演
『冬のソナタ』以後に、ペ・ヨンジュンとチェ・ジウの熱愛説が新聞を賑わせていた。
その2人がフッション・ショーの出演を終えて同じ飛行機でオーストラリアから帰国したのは、2002年4月25日だった。
超人気ドラマの主演2人が実生活でも恋人同士になったらビッグニュースである。
空港には大勢の報道陣が詰めかけた。

「ジウは妹」
ペ・ヨンジュンは質問攻めに遇ったが、「ジウは妹のような存在。兄と妹のように親しくしているだけなのですが……」と答えた。
別の機会にチェ・ジウも「もう子供ではないのに、こういう話が出てきて負担を感じますね。でも、ヨンジュン兄さんを避ける理由はありません」と語った。
以後も連日のようにスポーツ新聞はペ・ヨンジュンとチェ・ジウの熱愛説を記事にしていたが、2人が特別な動きを見せなくなると、次第に沈静化した。
報道のあまりの過熱ぶりに驚いたのは、とりわけ当人たちであったことだろう。
2人がお互いに好意を持っていたのは事実に近いと思われるが、あまりの騒動によって、恋愛に発展する機運がそがれてしまったのかもしれない。
爆発的な人気を得たトップ俳優同士だけに、一般のカップルのようには恋愛もままならない。
お互いに、天職ともいえる俳優業に専念する決意を再確認したとき、熱愛説もはかなく消滅していったのである。
カメラテストを実施
時間をかけて映画初主演作を模索していたペ・ヨンジュン。
彼の元にはCM契約の話が次々と持ち込まれた。
クレジットカード、携帯電話、証券会社、衣料ブランド、建設会社……。
いつのまにか、ペ・ヨンジュンは10ほどの企業のCMモデルに起用されていた。
契約料も破格で、出演作がないままに彼はイメージを売ることで「CM長者」となっていた。
それだけに、余計に本業にこだわりたかった。
俳優として納得する映画に主演することが、ペ・ヨンジュンにとっての矜持だった。
その熱意に周囲も折れ、退廃的な両班(ヤンバン)の役への挑戦を支援してくれることになった。
イ・ジェヨン監督からも「一度カメラテストをしてみよう」と声がかかった。
ペ・ヨンジュンは、眼鏡をはずし、髭を付け、韓服を着た。
さらに、髷を結ったカツラをかぶるつもりだった。
けれど、イ・ジェヨン監督がカツラを許さなかった。
自分の髪で髷を結わないと真実味に欠ける、というわけである。
ペ・ヨンジュンもその件は納得したのだが、実際に髷を結うとなると、想像以上の痛みに苦しめられた。
「息が止まるほど痛かった。こんなことをいつもしなければいけないなんて……」
弱音を吐かないペ・ヨンジュンが嘆くほどだから、本当につらかったのだろう。
それほど苦労して両班に扮してみると……。
気持ちは焦るばかり

やはり、実際に成りきってみないとわからないものだ。
ほとんどの人が「ペ・ヨンジュンが両班に扮しても似合うわけがない」と思っていたのに、カメラテストの評判は上々だった。
気を良くしたペ・ヨンジュンだったが、それでも頭の痛みには苦しめられるばかりだった。
撮影中にいつもこんな思いをしなければいけないのか、と思うと気が重かったが、鏡を見ては自分を奮い立たせた。
カメラテストの成功によって、イ・ジェヨン監督はペ・ヨンジュンの主演を決断した。
かくして、2002年の秋から、ペ・ヨンジュンは映画初主演の『スキャンダル』の撮影準備に入った。
現代的な青年をずっと演じてきたペ・ヨンジュン。
一転して、時空を越えて数百年前の風流人に扮しなければならない。
撮影に入る前に、やるべきことは数多くあった。
まずは減量。
朝鮮王朝時代のエリート層が筋肉質な体型をしていたのでは、サマにならない。
ペ・ヨンジュンはトレーニングをやめ、食事の量も減らした。
そのうえで、韓服を着こなして古い時代の所作を身につけるための訓練を始めた。
歩き方一つとっても、両班は威厳を保ちながらゆったりと歩かなければならない。
さらに、詩作、絵画、武芸に精通していなければならない。
覚えることが非常に多かったが、時間が足りずに気持ちは焦るばかりだった。
中でも、一番苦心したのは言葉だった。
朝鮮王朝時代の両班の言葉は、まるで外国語のようにも思えた。
興行的にも成功
撮影が始まってみると、言葉の問題で悩むことが多かった。
どんなにセリフを完全に覚えてカメラの前に立っても、自分では思いどおりに演技できたという実感がないのである。
周囲の反応はどうなのか……。
気になってイ・ジェヨン監督のほうを見ると、彼はプロデューサーとモニターを見ながら深刻な表情で話し合っていることが多かった。
一体、なんの話をしているのか。
気になるペ・ヨンジュンは、つい2人の間に割って入ってしまう。
「私にも聞こえるように話してくださいよ」
ペ・ヨンジュンは必死に懇願した。
あまりに切羽詰まった様子だったので、スタッフたちはかえって冗談だと思って笑い合った。
しかし、冗談でもなんでもなかった。
ペ・ヨンジュンは自分の演技に自信が持てず、監督やプロデューサーからのアドバイスを待っていた。
そんな状態だったから、周囲のヒソヒソ話が気になって仕方がなかったのだ。
テレビドラマで頂点を究めた俳優も、映画の世界ではまるで新人のように謙虚だった。
結果からいえば、それまでの実績を捨てて一から演技に取り組もうという姿勢が功を奏した。
映画『スキャンダル』は2003年の秋に韓国で公開されたが、ペ・ヨンジュンの演技が高い評価を受けた。
何よりも、「優雅なふるまいが両班の特徴をよく捉えていた」と評されたことがうれしかった。
また、興行的に黒字になったことが大きかった。
それ以前に「時代劇映画は当たらない」と言われてきたのに、そのジンクスを『スキャンダル』は覆した。
新しい役に果敢に挑んだペ・ヨンジュンの意欲は、興行的な成功という形でも実を結んだ。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
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