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“自殺大国”の汚名返上へ…

2018’03.17・Sat

“自殺大国”の汚名返上へ…韓国自殺予防協会に聞く、韓国の自殺防止対策と日韓の共通点

3月は自殺対策強化月間だ。
日本における自殺は2000年前後をピークに改善傾向にあるが、若者の自殺が減らないなどと未だに問題は山積している。

そんな日本以上に根深い自殺問題を抱えているのが、お隣・韓国だ。

世界保健機関(WHO)が2014年にまとめたリポートによれば、韓国の10万人当たりの自殺率は28.5人。
世界ワースト6位の日本(19.5人)に比べても非常に高く、OECD加盟国の平均12.1人の倍以上の数字となっている。
先進国のなかで最も自殺率の高い“自殺大国”という汚名も免れていない。

ただ韓国は今、大きく変わろうとしている。

韓国政府は1月23日、「国民の命を守る3大プロジェクト」を発表。
2022年までに自殺者、交通事故死亡者、労災事故死亡者をそれぞれ50%に減らすという目標を掲げた。

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韓国自殺予防協会、右から2番目がオ・ガンソプ会長

そのプロジェクトのひとつが「自殺予防国家行動計画」なのだが、そこに大きく貢献している団体が韓国自殺予防協会だ。
韓国自殺予防協会は2003年の設立以来、韓国の自殺を減らすためにさまざまな活動を展開してきた。
ソウルの中心部・乙支路(ウルチロ)のオフィスで、オ・ガンソプ会長をインタビューした。

「日本に学んでいる」

「私たちはイルボンから多くのことを学んでいます」

オ・ガンソプ会長が開口一番に語ったのはこんな一言だった。

企画の趣旨を簡単に説明したあとで、韓国よりも先に“イルボン(日本)”という言葉が出てきて意外だったが、オ・ガンソプ会長によると韓国は日本を参考にしているらしい。

「というのもひと昔前、日本は韓国よりも自殺率が高かった。しかし日本はここ5年ほどで大きく改善しています。韓国も改善傾向にありますが、それでも2016年の自殺率は25.6人(韓国統計庁)。13年間、OECD加盟国のワースト1位です。日本はどうやって自殺率を下げたのかを知るために、日本で関係者に会うなどベンチマーキングをしています」

韓国自殺予防協会の活動は、自殺予防に関する啓蒙活動や講演、学術研究などと多岐にわたるという。
その働きかけによって実現した具体的な対策も少なくない。

例えば、猛毒性の高い農薬の生産や販売を禁止にしたことだ。

「日本と同じく韓国も高齢者の自殺が多いのですが、特に農村などの地方で目立ちます。平昌五輪が行われた江原道(カンウォンド)や忠清道(チュンチョンド)は家々が点在している地域で、孤立している高齢者が少なくありません。彼らの多くは、農薬を使って自殺しています。そのため私たちの協会では、猛毒性の高い農薬の生産や販売を禁止しました。衝動的な自殺を防ぐためです」

韓国の自殺率は2011年の31.7人(韓国統計庁)をピークに改善傾向にあるのだが、その要因をWHOが「猛毒性の高い農薬パラコートの販売禁止」にあると評価したことも。
禁止前は、農薬を使った自殺が全体の5分の1を占めていたとの報道もあった。

近年には韓国で「100%確実に死ねる」などと強調した“自殺キット”が販売され、物議を醸したこともあるが、自殺の手段を抑えるというのは効果的なのだろう。

“後追い自殺”を減らすメディアへの対策

また、オ・ガンソプ会長はメディアへの対策も自殺防止のための重要な活動だと話す。

「韓国では有名人が自殺すると、それを追った“後追い自殺”が少なくありませんでした。有名タレントが自殺すると、翌月の自殺者が増加するのです。その大きな原因に、メディアの影響力がありました」

現実にここ数年間だけでも、何人かの韓国芸能人が自殺したという悲報は日本にも伝わっている。

「韓国メディアは、そのタレントがどこで、どのような方法で、なぜ自殺したのかを詳細に報じます。まるでスポーツ実況のように報じるメディアもありました。ただでさえ自殺は、伝染性が強いもの。有名人になれば、その影響力の大きさは想像に難くないでしょう。

そこで言論報道指針を打ち出して、韓国記者協会と協力しながら修正・補完しています。セミナーを開いて、記者への教育も行っています。記者たちも当初は“国民には知る権利がある”と理解をしてくれませんでしたが、今では改善されてきました」

韓国自殺予防協会の言論報道指針には、「具体的な自殺方法について書かない」「明らかではない自殺の理由を憶測で書かない」などと定められている。

「自殺する人たちは、実にさまざまな悩みを抱えています。それなのに、単純に“経済的な理由だ”と原因を断定するのは、故人に対する侮辱になる。また“死ぬしかなかった”などと自殺を正当化する論調も避けるように訴えています」

“自殺予防ゲートキーパー”の養成

このように、幅広い活動を行っている韓国自殺予防協会だが、今最も注目を集めているのは、文在寅大統領が打ち出した前出の「自殺予防国家行動計画」だろう。

自殺者を半分に減らすという同計画のなかには、“自殺予防ゲートキーパー”を100万人養成するというビジョンがあり、そのゲートキーパー養成において、重要な役割を担っているのが韓国自殺予防協会でもある。

「自殺予防のゲートキーパーは、周囲の人に自殺の予兆があったとき、いち早く発見して、寄り添い、専門家に伝える役割をします。普通の人は自分の知り合いが“死にたい”ともらしているのを聞いても、何をすればいいかわからないでしょう。ゲートキーパーはよく観察して、話を聞いて、専門家につなげる。そういう人が増えれば自殺を減らせると思います。

私たちの協会では、ゲートキーパーの養成プログラムを開発しており、これまで50万人のゲートキーパーを養成してきました」

ゲートキーパーは会社員や主婦、学生など誰でも教育プログラムを受ければなれるという。
韓国自殺予防協会は現在、韓国保健福祉部傘下の中央自殺予防センターと協力して、ゲートキーパーを200万人に増やすことを目標にしている。

韓国自殺予防協会の活動もあり、韓国の自殺率は年々下がっている。
とはいえ、世界各国と比べると未だに自殺率が高いのは事実だろう。
それは日本も同じだ。

それでも日本は2003年~2015年の12年間で自殺率が30%(27.0人→18.9人)も減少しいる。
一方で韓国は、ピークである2011年の31.0人と比べても、2016年の25.6人と18%減に留まっている。

両国の差はどこにあるのだろうか。

自殺対策予算は日本の40分の1

韓国自殺予防協会のオ・ガンソプ会長は、「韓国は日本に比べてリソースがとても少ないのが現実です」と口を開く。

「一口にいえば、韓国は予算と人力が不足しています。韓国には中央自殺予防センターがひとつしかありませんし、職員もそれほど多くありません。また自殺予防のためには多くの投資が必要ですが、まだまだ貧弱です。

それでも文在寅政権となって、自殺予防が国家が解決すべき課題のひとつとして位置づけられ、予算も100億ウォン(約10億円)から160億ウォン(約16億円)に増えました。さらに保健福祉部(日本の厚生労働省に相当)のなかに、新しい独立した部署として“自殺予防政策課”も設けられました。今年度からさらに多くの活動が始まるといえるでしょう」

前年比60%増という予算の引き上げ方を見れば、韓国の本気度が伝わってくる。

ただ、それでも日本の自殺対策関係予算(2016年、673億円)の40分の1に過ぎず、その少ない予算で日本以上に高い自殺率を改善できるのかという、懐疑的な視線もあるのが現実だ。

そうした現実を認めつつ、法整備の面でも韓国は日本に及んでいないと、オ・ガンソプ会長は指摘する。

「日本は2006年に自殺対策基本法が公布され、何度か改定されています。一方で韓国は2011年になって、ようやく自殺予防法が作られました。韓国の法律はまだまだ具体性が足らない。だから今年度、法律も発展させる努力をしていこうと考えています」

自殺の防止や予防においては日本が一歩先を進んでいるようだ。

なぜ日本と韓国の自殺率が特に高いのか

とはいえ世界各国と比べると、日本と韓国には自殺率が高いという共通点がある。

世界保健機関(WHO)が2014年にまとめたリポートによれば、日本はワースト6位、韓国はワースト2位なのだ(約90カ国中)。

なぜ、日本と韓国は自殺率が高いのだろうか。

厚生労働省の「平成26年中における自殺の状況」を見ると、自殺の「原因・動機」としてもっとも多いのは、「健康問題」(1万2920人)だ。
次点は「経済・生活問題」(4144人)となっている。
韓国も健康問題や経済問題が自殺の原因・動機の多くを占めている。

しかし考えてみれば、病気に苦しんでいる人や経済的な悩みを抱えている人は、それこそどこの国にも数多くいるはずだ。
にもかかわらず日本と韓国の自殺率が特別に高いのは、少々不自然とさえ言えるかもしれない。

そんな筆者の疑問をぶつけると、オ・ガンソプ会長は「私なりの見解があります」と前置きした後で語り始めた。

「韓国と日本には、“自殺を許容する文化”があると考えています。それどころか、自殺を美化するところさえある。

例えば日本では以前、会社を倒産させた社長が責任を取って自殺するということがあったと聞きました。

一見、これ以上ないほどの責任を果たしたように思えますが、冷静に考えれば、その社長はまったく責任を取る行動をしていない。本当に責任を取るのであれば、新たな事業を起こすなどして会社を生かすか、社員の就職先を探すといった行動をするべき。自殺するなんて、無責任です。しかし“責任を取って死ぬ”という文化が成り立っています。

これは韓国も同じです。顕著だったのは、盧武鉉元大統領が自殺したとき。生前はそれこそ全国民が彼を非難していましたが、死後は“どれだけ検察が追い詰めたのか”、“どれだけ新政府が弾圧をしたのか”と世論が180度変化しました。人が死ぬことで、態度ががらりと変わったわけです。

韓国と日本には、誰かが自殺をしたら“どれだけ苦しんだのだろうか”と同情する文化があるでしょう。極論すればそれは、自殺したことを認めてあげるような態度です。私はそういう文化が両国の自殺率が高い背景にあると考えています」

たしかに韓国では著名人や芸能人の自殺があったとき、多くの同情の声が集まる。
もしそんな文化的背景が影響しているとすれば、日韓の自殺問題は他国以上に根深い問題と言えるだろう。

「自殺は絶対にいけないこと」

だからこそオ・ガンソプ会長が強調するのは、意識の改革だ。

「“自殺は絶対にしてはいけないこと”。すべての人の意識がそのように変わってほしいというのが私たちの願いであり、目指すところです。

自殺が一度起こると、残された家族や友人にとても悪い影響を与えることになります。最低でも6人に深刻な精神的なダメージを与えるという研究結果もあります。

考えてみてください。自分の家族が自殺をしたら、どれだけ衝撃を受けるか。それは仲の良い友人でも同じ。自殺は絶対にしてはいけない。どんな理由があってもです」

今はまだ“自殺大国”という汚名を返上できないでいる韓国。
それでも着実に改善の道を進んでいる。

最後に「私は、自殺は必ず予防できると信じています」と答えてくれたオ・ガンソプ会長。
韓国自殺予防協会のこれからの活動に期待したい。

-S-KOREA-



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